「自由」
改めまして、入賞した皆さん、おめでとうございます。優勝したカナダのブルース君はご自身でも「信じられない、まさか自分が一位になるとは思ってもいなかった」と方々でおっしゃってますね。彼の解釈、確かに新鮮で、ショパンとバッハの融合かと思わせるような、右手と左手がそれぞれのヴォイスをオシャレに引き立たせていて、リズミカルでペダリングも駆使していて、ハッとするような場面も多くてかっこよかったです。審査員の言う「新しい解釈」の代表例だったんでしょうね。彼は一次からずっとピアノの前でもあまり緊張した表情が無いように見えました。プレッシャーなく自由に自分の演技ができたのではないでしょうか。「自由」というのが今回のショパンコンクールのキーワードのような気がしました。
Gariにとってもはじめての記念すべきイベント
今回のショパンコンクールは私にとっては初めて真剣に追いかけた記念すべきイベントとなりました。2015年の時はまだ自分自身がピアノを再開していなかったので、結果をチェックするだけで満足してました。2年前にピアノを再開して、やっぱり作曲家の中ではショパンが一番好きなので、今回はじっくり見てみようかと思って。やっぱり自分もピアノを弾いていると、思い入れは変わるもんですね。本当に自分でも驚くほどにはまりこんでしまい、鑑賞ノートまで作って、できる限り多くのコンテスタントの演奏を聴きました。「ながら聴き」では、まったく耳に入ってこないし印象にも残りにくいので、きちんと時間を作って聴きました。多分この3週間、余裕で1日2時間以上ショパコンに没頭していたと思う。下馬評はいろいろ出ていたけれど、自分の耳で聴いてみたいと思って。ゆったり賞
ピアノって不思議なものですね。演奏者の緊張がこわいくらいに聴き手に伝わってくるんです。緊張を全く感じさせない演奏をしてくれると、聴いている方はほんとにリラックスして気分が良くなります。そこには「勝ちにいかない」、「素の自分を届ける」そんな素晴らしい芸術空間が広がっています。私の選んだ緊張しない「ゆったり賞」受賞者!
第1位 ゲオギルス オソキンス (イケメン賞、ベストアーティスト賞も同時受賞😄)
第2位 アレクサンダー ガジェブ
第3位 ニコライ ホジャイノフ
この御三方、ステージの上で緊張が全く見えません。だから聴いていてほんとうに安心していられる。緊張した様子が見える演奏者は、見ていて苦しくなるし、「がんばって〜!あなたならできる!」と母心がでちゃうんです。
ショッキングな結果の連続
みなさん嬉しい結果が出て沸いているところで、あまりネガティブなことを書きたくはないのですが、自分なりのショパコン鑑賞記録としてショッキングな結果の連続だった今回のショパンコンクールのことも残しておきたいと思います。
一次予選後に技術面で有力視されていた多くのコンテスタントが姿を消した時に、「普通に楽譜通りミスタッチなく、指定のスピードで綺麗に弾ける」だけでは難しいのかなという印象を受けました。そういう演奏は確かにどれも同じように聞こえてしまう。多少のミスタッチはあっても、何か訴えるもの、オリジナリティを持っている人たちが上に上がって行くのかと。
二次予選後の最大なるショックは、「ゆったり賞」「イケメン賞」「ベストアーティスト賞」三賞総なめにしたオソキンスが通過しなかったこと。彼こそが最高にクリエイティブでオリジナリティあふれる凄い演奏をする人なのに。ミスタッチが多すぎたのか、個性が極端に強すぎたのか。でも彼の演奏には魂が入っています!といくら私がここで力説してもしゃーないが。。彼のソナタが聴きたかったよぉ。彼のコンチェルトが聴きたかったよぉ。と2015年のショパコンのYouTubeを観に行ったら、この人、6年前にももう既に凄かった。そして熱狂的オソキンスファン は世界中にいるんですねぇ。その2015年の彼のコンチェルトのYouTubeビデオに、「6年経って再びこの演奏を聴くためにこの動画に戻ってきた。2015年のオソキンスのコンチェルトは今回のショパコンのどのファイナリストよりも優れている。」と強気のコメントしてる人が何人かいた。こういうタイプの芸術家は、しっかりコアなファン がつくんですね。
三次後にさらに追い討ちをかけるように信じられないショッキングなできごとが。シモン ネーリングがファイナルに行かないという理不尽な結果。彼は音のクリアリティはピカイチで、一音一音を大切に伝統的なこれぞショパンという演奏をするタイプだと思う。私は個人的にオソキンスは大好きだけど、彼のような個性的なタイプはやはり審査員から高く評価されにくいのだろうという印象があり、私の中での最有力候補は一次からずっとシモン君でした。彼はすでにショパンのコンチェルト1番と2番を収録したアルバムを出していて、YouTubeでも聴ける。これを聴いたらもう彼はプロ中のプロ。レベルが違いすぎて、逆に今回のファイナリストと競わせるのも不自然な感じさえする。審査員長が涙を飲んで彼をセミファイナルどまりにせざるを得なかった裏事情でもあるのかと思えてならない。ちなみに今回の審査員長はシモン君の先生だとか。同じくニコライ ホジャイノフもシモン君同様、ショパンを徹底的に勉強して彼なりの解釈で素晴らしい演奏をする。彼も器が大きすぎたのが理由なのかファイナリストに名前が無かった。シモンとニコライがトップ12に入っていないというのは、ほんとに謎めいているという印象を個人的には受けてしまう。すでに名前が売れているピアニストにはセミファイナルで留まってもらったとしか思えない感じ。海外のサイトでもこの2人がファイナリストにならないのはスキャンダルだとさえ書かれていました。すみません、音楽の知識のかけらもない私がいうべきことでもないというのはわかってはいるのですが。。もしコンクールの意義が新人発掘の場ということであれば、出場者の条件をもう少し見直すべきではないのかと。それから年齢制限も15歳から30歳までになり、さすがに生きている年数が倍近く違う人たちが同じ土俵で評価されるというのはあまりに無理があるのではないかと思いました。
新しい解釈
先日の記事「21世紀に求められるショパン」でも書きましたが、今回は新しい解釈、新しい概念を果敢にも披露する若者が多くて、審査員に疑問を投げかけてきたということでした。今回一次から続けて見てきて、日本とポーランドはいろいろな意味で共通点があり、ピアニストたちも伝統的なショパン、ショパンはこうあるべき、のような教育を受けてきているのではないかと思いました。私的にはそういう「The Chopin」のような解釈が好きで、シモン君や愛実ちゃんの弾く繊細で丁寧なショパンに心を惹かれます。逆に新風を吹き込んだのは、カナダ、イタリア、スロベニア、スペイン、ラトビア(笑)。伝統を重んじる層から見ると、まるで試験の出題範囲が予告無しに変更されたような感じ。過去にもそういうピアニストは否定されてきたという歴史がありそうなので、今回の勇気あるピアニストたちはまさに新鮮組(新撰組を文字って)。それぞれにそれぞれの良さがありました。
ショパコンを通しての収穫
この3週間でほんとにたくさんのことを学びました。自分がここまでショパコンにハマるというのも自分自身の知らなかった一面を発掘。技術面でももちろん、指の形、表現のつけ方、ほんとうに参考になります(自分の演奏に活かせるかどうかは別として)。好きなショパンのピースもさらに増えました(弾きたい曲リスト膨らむ)。近くでコンサートがあったら絶対に行きたいピアニストはオソキンス様、シモン君そしてガジェブさん。
ピアノのブランド
昨日のガーラコンサートで、優勝者のブルースがファツィオリを選んだので、入賞者全員がファツィオリで演奏してました。そしたら、反田さん、愛実ちゃん、ヤコブさんの演奏はやはりスタインウェイと実にしっくりマッチしていて、ファツィオリでは良さが半減してしまう。ガジェブさんもシゲルカワイで彼の魅力を最大限に発揮できてる感じで、ファツィオリではなんか不自然な感じでした。そして、優勝者のブルース君は当然、ガルシアも彼らのキャラクターにはこのファツィオリがピッタリ!。みなさんご自身の個性でこだわってピアノを選ばれている、そしてその効果がガーラコンサートでしっかり浮き彫りになっていたのも印象的でした。しつこいけど、オソキンスはヤマハにこだわっていて彼はヤマハじゃなきゃダメっていう感じ。
順位なんてどうでもいい
最後にファイナリストのコンチェルトの演奏を聴いた時には、もう皆さんすごく幸せそうで、楽しんで彼らなりのショパンを私たちに届けてくれていて、とても感動的でした。そして今回のショパンコンクールは新しい解釈を前向きに受け入れたという審査員の言葉通り、個性的な演奏が多くて楽しかったし、もうここまでそれぞれの個性が違うと、順位なんてどうでもいいし、逆にどうやって順位をつけるのかと考えさせられました。
歴史に名を残す巨匠たちの絵画。
これにどうやって順位をつけろと?
コメント
「ショパン鑑賞記まとめ」も「21世紀に求められるショパン」の記事も興味深く読ませて頂きました。Gariさんの考察は鋭くて感心してしまいます。頭の切れる方なんだなぁと改めて感じます。そして感想は率直ながらも温かい。ショパン演奏やショパコンに関する洞察力は凄い。
Gariさんのブログは内容が濃くて面白いし勉強になります♪
いつもコンパクトにまとまっていて読みやすいし文章もお上手!
(それに引き換えわたしのブログはダラダラとどうでもいいことをお喋りしてるだけで〜(^_^;))
Gariさんのブログを訪問するきっかけになったオソキンスに感謝だわ〜
それにしてもオソキンス。
↓これにビックリ!
2015年の彼のコンチェルトのYouTubeビデオに、「6年経って再びこの演奏を聴くためにこの動画に戻ってきた。2015年のオソキンスのコンチェルトは今回のショパコンのどのファイナリストよりも優れている。」
やはりオソキンスみたいな演奏家は熱烈なファンがつきますね〜私もそのひとり♪
ガルシアのコンチェルト2番の演奏にハートをわしづかみされたけど。
やはり今いちばん印象に残ってるのはオソキンスです♥
↓ここに激しく同感です!
二次予選後の最大なるショックは、「ゆったり賞」「イケメン賞」「ベストアーティスト賞」三賞総なめにしたオソキンスが通過しなかったこと。
個人的にはベストドレッサー賞もあげたい♥
(実は…ガジェブのルックスも好みデス♥(*ノェノ)でも!オソキンスがぶっちぎりですけどね!浮気はしませんから!( •̀ㅁ•́;))