10月20日、バンクーバーで、サー・アンドラーシュ・シフのコンサートに行ってきました。シフ師匠はバンクーバーの後、日本でツアーだったみたいですね。
バンクーバーでのプログラムは
イタリア協奏曲
フランス風序曲ロ短調 BWV831
ゴルトベルク変奏曲
なんと!なんと!贅沢なプログラムなんでしょう!
シフ師匠は健康上の都合でコンサートがキャンセルになったり、代役が来たりということが過去にも度々あったようで、当日になるまで心配でしたが、幸運にも元気なお姿で登場してくださいました。
今回は会場の緊張感が何故か全然違うような感じがしました。今までも何度かクラシックコンサートを見てきましたが、今回のシフ師匠のコンサートは、遅刻してくるお客さんはいなかったようですし、演奏中に携帯の着信音が鳴るという不祥事もゼロ。そして師匠が舞台に登場するや、長い長い拍手喝采。
シフ師匠はピアノの前に座り、まずはシンフォニアの9番をしっとりと弾き上げました。プログラムではイタリア協奏曲が最初だっただけに、観客の意表を突きます。素敵な前菜からのスタートでした。
舞台にはピアノの傍にマイクが置いてあり、シフ師匠の語りの時間が始まりました。イタリア協奏曲の曲の構成についてざっと説明をしながら、曲の一部を弾いて見せたりする演出は、まさにマスタークラスのよう。センスの良いジョークを交えて会場から笑いをとりながら、約5分にも及ぶトークショー。こんなクラシックコンサート、初めてです。
イタリア協奏曲が終わると、再びマイクを手に取り、2曲目のフランス風序曲の解説に入ります。イタリア協奏曲の次にフランス風序曲とは、なんとセンスの良い選曲。シフ師匠の語りの中で、バッハは実際にイタリアにもフランスにも実際に旅行をしたことはなかったという話を聞かせてくれました。
「バッハの時代は外国に旅行するなんて極めて困難な時代でしたからねぇ。あ〜、でも現在も同じですね。外国に旅行するのは困難、ステイホームする方が安心です。」穏やかな口調でまるで牧師さんのように静かにジョークを披露して、観客を喜ばせてくれました。
前半にシンフォニア9番、イタリア協奏曲、フランス風序曲とすでにものすごく盛り沢山で、前半戦で既におなかいっぱいです。フランス風序曲(Overture in French Style in B minor, BWV 831)という曲は今回初めて聴きましたが、8曲からなる舞踏曲で、これまた魅力あるピースでした。
インターミッションを挟んで、後半は待ちに待ったゴルトベルク変奏曲です。また師匠の5分以上の語りからのスタート。
「私が初めてコンサートでゴルトベルクを弾いたその昔、この曲を演奏する人はほとんどいなかったんですよ。でも今ではみんながゴルトベルクを弾いてますね。中には小学生でさえ、弾いている。でもね、この曲はバッハの作品の中でも最高峰と言っても過言ではないピースです。この大曲に手を出す前に、インベンション、シンフォニア、フランス組曲、平均律などでしっかり修行を積んだ者のみが初めて弾く資格がある、そういう偉大なる曲なのですよ。テクニカルに簡単な変奏曲も含まれてはいるものの、全体としてバッハを知り尽くした者でないと表現できない畏れ多いピースなのです。きちんと他のピースで修行もせずにいきなりゴルトベルクを弾くと言うことは、小さな丘も登れないような人がヒマラヤに登ろうとしているようなものなんですよ。」
きゃー、シフ師匠、耳が痛いです〜。丘も登れずヒマラヤ登山しているGariは穴があったら入りたい気分になりました〜。おっしゃる通りです。
そして師匠の奏でるゴルトベルク変奏曲。もうまさにマジカルワールド。スタインウェイから溢れる美しいアリアは、まるで天国への道が見えるかのような神聖な空気が会場を包んでいるかのよう。演奏時間1時間15分、シフ師匠の気迫が観客にも伝わって来ます。32曲、全く飽きることなく、堪能させてもらいました。そして最後のアリアを弾き上げたシフ師匠、30秒くらい無言で椅子に座り続け、最後にまるで身体から何かがふわ〜っと出ていったような動きをされました。その間会場も息を呑んで静寂の中で師匠が立ち上がるのを待っていました。まさに神業。もちろんシフ師匠が弾いていたのですが、神か何かが彼の身体を支配していたかのような感じを受けました。
後からシフ師匠のことを少し調べてみると、彼のご両親はお二人ともホロコーストから生存したユダヤ人だそうです。バンクーバーにもたくさんのユダヤ系の方々がいますが、ユダヤ人は努力家で勉強熱心という印象をいつも受けます。そしてシフ師匠の奥様は日本人だそうです。親近感がわきますね。今回のコンサートでも、「私のワイフはいつも私のことを『ど真面目』と言うんですよ。」とおっしゃってました。
ゴルトベルクを聴いた後、アンコールはあるのかな?この大曲の後に、どんな曲を持ってきてもしらけてしまいそうで、どうされるのか興味深いところでしたが、やはりアンコールは無しでした。だから最初にアンコールの前倒しでシンフォニアを1曲入れたんですね。最後、会場は全員スタンディングオベーションで、シフ師匠は4回も舞台に戻って笑顔を振りまいてくださいました。インターミッション、語りの時間も含めて、丸3時間の素晴らしいショーでした。間違いなく今まで聴いたクラシックコンサートの中で最高に印象深いコンサートでした。生で聴く価値大、大、です。本当に行って良かった。
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コメント
シフ師匠のコンサート記を待ってました♪\(^o^)/
曲目が決まっていたコンサートはどんな感じだったのか気になっていたので興味深く拝見しました〜(^^)
私のプログラムとは異なりますがやはり素晴らしかったようですね~ バッハオンリーのプログラムはバッハの魅力を味わい尽くせますね♪
先日のGari さんのコンサート記事で観客のマナーが残念だったと書かれていましたが、シフさまのコンサートはそんなことはなかったようで、やはり格が違うんでしょうね~生真面目な日本人はコンサートでもお行儀が良くて途中入場や演奏中に音を出すなんて事態はほとんどないのですが、それでもシフ師匠のコンサートは雰囲気が違いました。観衆全員が演奏家をリスペクトしている崇高な雰囲気が会場全体に漂ってました♪(*^^*)
こちらも約3時間のコンサートで聴き応えたっぷりで贅沢なひとときを堪能しました♪
シフ師匠は作曲家や曲について解説し、尚且つ弾きながらのレクチャーもあり、まるで師匠の授業を受けている感じでしたよね。(*^^*)
ただ!!私がおバカなのでシフ師匠の英語トークがほとんど理解できず…(-_-;)哀しかった…(ノД`)シクシク
日本では舞台にヴァイオリニストである奥様がいらっしゃって通訳をして下さっだのですが、ごくごく一部しか通訳されなくて(奥様は通訳のプロではないし、同時通訳は難易度高いですよね^^;)英語弱者には厳しいものでした…(;´Д`)
クラシック畑の方は教養のある方々が多いので皆さんはシフ師匠のトークを理解されているようで時にはジョークに笑っていて英語が苦手な私はわけが分からずぽか〜ん…(?_?)
今更ですが語学を勉強したくなりました~(汗)
Gari さんは演奏もトーク&レクチャーも全て堪能できたので素晴らしい体験だったでしょうね~羨ましいです~
それにしてもシフ師匠の演奏は素晴らしくて身体にも心にも深く深く染み込んできました。
あ。自ブログで書くべき事を書いてしまいましたね~(^o^;)ごめんなさい〜m(_ _;)m
シフ師匠の演奏を聴いて滋味豊かな栄養をチャージできたような気がします。少しでも演奏に反映されるといいですね♪(^^♪(特にバッハ♪)
きんどーちゃん、こんにちはー。コメントありがとうございます。シフ師匠のコンサート、ほんとに素晴らしかったですよね。コンサート終わった後、しばらく余韻に浸ってとろけてました。きんどーちゃんは、今回シフ師匠は初めてだったのかな?それとも過去にも行ったことがあるのかな?バンクーバーでも、曲目の決まっていないバージョンのコンサートもあり(私はさすがに両方のチケットは買えなかった😢)、両方とも鑑賞した熱狂ファンのおばさま方が、会場で熱く語っているのを小耳にはさみました。
「観衆全員が演奏家をリスペクトしている崇高な雰囲気」そうそう、それです!さすがきんどーちゃん、表現力が素晴らしい。シフ師匠、世界中の観客をそう言うムードにさせるカリスマ的パワーがあるんですね。
奥様が日本人で、しかもプロのバイオリニストだとは知りませんでした。日本でのツアーには奥様が通訳として同行されるとは、仲睦まじい素敵なご夫婦ですね。確かに通訳は難しいし、しゃべっている本人のパーソナリティーや、ジョークもただ訳しただけでは伝わりにくいものもありますね。シフ師匠があの穏やかな口調で、さりげなく時にシニカルなジョークを挟む意外性に、演奏はもとより、トークも楽しめるエンターテイメント性のある演奏会、他のピアニストとは違ってユニークですよね。トークが入ると、ますます親近感が沸くし、印象にも残りやすいですね。
きんどーちゃんのブログでもシフ師匠のコンサート鑑賞記、楽しみにしてますよ〜!